名古屋高等裁判所 平成8年(ラ)218号 決定 1997年10月15日
抗告人 川島英代 外2名
相手方 植村由美 外2名
被相続人 植村鉄三 外2名
主文
一 原審判を取り消す。
二 原審判別紙第一目録記載の各不動産の競売を命じ、その売却代金から競売手続費用及び平成8年(ラ)第218号抗告人植村忠秀が負担した遺産管理費用209万0056円を控除した残額を平成8年(ラ)第209号抗告人川島英代、同北山敦子、相手方植村由美、同栗山啓子、同須永好子に各6分の1あて、平成8年(ラ)第218号抗告人植村忠秀に右6分の1に209万0056円を加えた額をそれぞれ分配する。
三 本件調停費用及び審判費用中、鑑定人滝本将一に支給した鑑定料30万円は当事者全員が各5万円を負担するものとし、抗告費用は各抗告人の負担とする。
理由
第一即時抗告の趣旨及び理由
抗告人らの即時抗告の趣旨及び理由は、別紙各即時抗告申立書のとおりである。
第二当裁判所の判断
一 相続の開始、相続人及び法定相続分、遺産の範囲、特別受益及び寄与分並に遺産の管理費用についての認定判断は、原審判3枚目表12行目の「である」の次に「(原審判別紙第一目録の不動産の中にはこれと異なる持分の記載のあるものがあるが、一件記録によれば、これは被相続人鉄三の死亡後に一部の相続人が一方的になした実体関係に合致しない登記であると認められる。)」を、同裏2行目の「不動産である」の次に「(ただし、同目録記載16の土地については4分の3の持分)」をそれぞれ加えるほか、同審判の理由欄「1」ないし「4」の説示と同一であるから、これを引用する。
二 分割方法について
一件記録によれば、抗告人植村忠秀は、自らが原審判別紙第一目録記載1、2及びその周辺の土地(同目録記載3、11及び12の各不動産)を取得し、その他の土地を同抗告人以外の相続人間で現物分割することとし、特に、抗告人植村忠秀と感情的に激しく対立している抗告人川島英代及び同北山敦子には、同目録記載14の土地、及び場合によってはこれに同目録7の土地を加えてこれを取得させ、不足分は代償金を支払う形で分割することを希望していること、抗告人植村忠秀は、被相続人鉄三の一人息子であって、いわゆる「植村家の跡取り」として、同目録記載2、3、11及び12の各土地を敷地とする同目録記載1の建物(植村家の家屋敷)に妻とともに居住するかたわら、老朽化した同建物の維持管理に当たっていることからすると、同抗告人にこれを取得させ、他の相続人間でその他の遺産を現物分割の上、不足分については、これを代償金を授受する方法を採ることも考えられ、相手方栗山啓子、同須永好子もこれに反対はしていないところである。しかしながら、抗告人植村忠秀は、従前勤務していた○○新聞社を退職した後、妻とともに喫茶店を経営していたものの、その経営は当初から不振で借財を重ね、現在、強制競売により自己所有の土地、建物について債権者から差押えを受けているだけでなく、本件遺産の大部分(同目録記載1ないし5、7ないし12、14ないし17の各不動産)にかかる同抗告人持分について、平成9年5月2日岐阜地方裁判所大垣支部の強制競売開始決定により差押えを受けている状態にあり、かつ、この建物の敷地である同目録記載2の宅地の評価額が遺産総額の約3分の1を占めており、これらの事情からすると、同抗告人において代償金を支払う資力があるとは到底認められない。この点について、同抗告人は同目録記載4及び15の各土地を売却し、その代金をもって代償金を支払うと主張しているが、そもそも、その相続分からして同抗告人が本件遺産分割において右各土地まで取得することが相当であるかどうかが問題である上、前記のとおり、右各土地にかかる同抗告人持分には差押えがされていることから、これらの土地を任意に買い受ける者が現実にいるかどうかも不確実であり、仮にこれがいたとしても、その代金をもって、抗告人川島英代、同北山敦子、更に相手方植村由美に対し代償金を支払うに十分であるとはにわかに認め難い。しかも、抗告人川島英代及び同北山敦子は、抗告人植村忠秀と感情的に激しく対立し、同目録記載1、2の各不動産を抗告人植村忠秀が取得し、抗告人川島英代及び同北山敦子が取得しないという分割には応じられない旨強く主張している。加えて、右のとおり遺産のうち抗告人植村忠秀持分について差押えがされている現状に鑑みると、このような状態にある不動産を各相続人に現物分割すること自体相当であるとはいえない。
また、右のような諸事情に照らせば、本件遺産を相続人全員の共有のままとすることは当事者の意思と甚だしく乖離するもので適当ではない。
以上の諸事情を総合勘案すると、本件相続人らが本件遺産につき換価することを望んでいるわけではないことを考慮したとしても、本件遺産は、これを競売に付し、その売却金から競売手続費用及び抗告人植村忠秀が支出した遺産管理費用209万0056円を控除した残額について、抗告人川島英代、同北山敦子、相手方植村由美、同栗山啓子、同須永好子に各6分の1あて、抗告人植村忠秀に右6分の1に右遺産管理費用209万0056円を加えた額をそれぞれ分配するのが相当である。
三 手続費用のうち、鑑定人滝本将一に支払った鑑定料30万円は、当事者全員に法定相続分に応じて負担させ、抗告費用は各抗告人の負担とすることとする。
四 よって、これと異なる原審判を取り消し、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 宮本増 裁判官 野田弘明 立石健二)